百人一首
白州正子の「私の百人一首」購入
ももしきや 古き軒端の しのぶにも なほあまりある むかしなりけり (ももしきや ふるきのきばの しのぶにも なほあまりある むかしなりけり) 順徳院 「宮中の古く荒れた軒に生える忍ぶ草を見るにつけても、いくら忍んでも忍び尽くせない昔の御代だよ。 朝…
人もをし 人もうらめし あぢきなく 世を思ふゆえに 物思ふ身は (ひともをし ひともうらめし あぢきなく よをおもふゆえに ものおもふみは) 後鳥羽院 「時には人を愛しく思ったり、時には人をうらめしく思ったりする。味気ない世だと思うゆえ、思い悩むこの…
風そよぐ ならの小川の 夕暮は みそぎぞ夏の しるしなりける (かぜそよぐ ならのをがはの ゆふぐれは みそぎぞなつの しるしなりける) 従二位家隆 「風がそよそよと楢の葉に吹いている。この小川の夕暮れは秋のようだ。しかし六月祓のみそぎだけが、まだ夏…
来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや藻塩の 見もこがれつつ (こぬひとを まつほのうらの ゆうなぎに やくやもしほの みもこがれつつ) 権中納言定家 「待っても来ないあなたを待つ私は、松帆の浦で夕なぎの頃に焼くという藻塩のように、身も心も恋こがれ…
花さそふ 嵐の庭の 雪ならで ふりゆくものは わが身なりけれ (はなさそふ あらしのにはの ゆきならで ふりゆくものは わがみなりけり) 入道前太政大臣 「嵐が桜の花を誘って庭一面に降っている。まるで雪のようだ。しかし本当に古りゆくは私自身なのだな。…
おほけなく うき世の民に おほふかな わがたつ杣に 墨染の袖 (おほけなく うきよのたみに おほふかな わがたつそまに すみぞめのそで) 前大僧正慈円 「身の程にすぎたことだが、つらいこの世に生きる人々におおいをかけたい。比叡山に住み始めてから身につ…
み吉野の 山の秋風 小夜ふけて ふるさと寒く 衣うつなり (みよしのの やまのあきかぜ さよふけて ふるさとさむく ころもうつなり) 参議雅経 「吉野の山の秋風が吹き下ろし、夜も更けて、かつての都、吉野の里からは寒々とした衣をうつ音が聞こえてくること…
世の中は 常にもがもな 渚漕ぐ あまの小舟を 綱手かなしも (よのなかは つねにもがもな なぎさこぐ あまのをぶねの つなでかなしも) 鎌倉右大臣 「この世の中が永遠に変わらないものであって欲しいなぁ。漁師が小舟を綱で引く景色にしみじみと心が動かされ…
わが袖は 潮干に見えぬ 沖の石の 人こそ知らね 乾く間もなし (わがそでは しほひにみえぬ おきのいしの ひとこそしらね かわくまもなし) 二条院讃岐 「わたしの袖は、引き潮の時にも見えない海中の石のように誰にも知られず、恋の涙で乾く暇もない。 沖の…
きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに 衣片敷き ひとりかも寝む (きりぎりす なくやしもよの さむしろに ころもかたしき ひとりかもねむ) 後京極摂政前太政大臣 「コオロギが鳴く 霜夜の寒々としたむしろの上、自分の方袖を敷いてわびしく寝るのだろうか。 …
見せばやな 雄島のあまの 袖だにも 濡れにぞ濡れし 色はかはらず (みせばやな をじまのあまの そでだにも ぬれにぞぬれし いろはかはらず) 殷富門院大輔 「あなたに恋いこがれて流す血の涙で、色の変わったこの袖をお見せしたいものです。雄島の漁師の袖が…
玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする (たまのをよ たえなばたえね ながらへば しのぶることの よわりもぞする) 式子内親王 「わが命よ、絶えるなら絶えてしまえ。生きながらえて、心に秘めたあなたへの思いが隠しきれなくなるか…
難波江の 蘆かりねの ひとよゆえ みをつくしてや 恋ひわたるべき (なにはえの あしのかりねの ひとよゆえ みをつくしてや こひわたるべき) 皇嘉門院別当 「難波の入り江で刈られた、短い蘆の一節のようなかりそめの一夜をあなたと過ごしたばかりに、わが身…
村雨の 露もまだひぬ 槙の葉に 霧たちのぼる 秋の夕暮 (むらさめの つゆもまだひぬ まきのはに きりたちのぼる あきのゆふぐれ) 寂蓮法師 「にわか雨が通り過ぎ、そのしずくも乾かないうちに、槙の葉のあたりに、白く霧が立ち上る秋の夕暮れであるよ とど…
嘆けとて 月やは物を 思はする かこち顔なる わが涙かな (なげけとて つきやはものを おもはする かこちがほなる わがなみだかな) 西行法師 「嘆けといって月がわたしに物思いをさせるのか。そうではない。月のせいにして、わたしの恋の思い出に涙を流して…
よもすがら 物思ふころは 明けやらぬ 閨のひまさへ つれなかりけり (よもすがら ものおもふころは あけやらぬ ねやのひまさへ つれなかりけり) 俊恵法師 「一晩中、恋人のつれなさを嘆くこのごろは、いつまでも朝の光がさし込まない寝室のとの隙間まで無情…
長らへば またこのごろや しのばれむ 憂しと見し世ぞ 今は恋しき (ながらへば またこのごろや しのばれむ うしとみしよぞ いまはこひしき) 藤原清輔朝臣 「生きながらえれば、このつらい思いも懐かしく思い返されるのだろうか。あのつらかった昔も今では恋…
世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる (よのなかよ みちこそなけれ おもひいる やまのおくにも しかぞなくなる) 皇太后大夫俊成 「この世の中に辛さから逃れる道などないんだな。つらさから逃れるために入った山奥でも鹿が悲しげに鳴い…
思ひわび さても命は あるものを 憂きに堪へぬは 涙なりけり (おもひわび さてもいのちは あるものを うきにたへぬは なみだなりけり) 道因法師 「つれない人を思い嘆いてはいても、命を捨てることも出来ず、つらさに絶えきれずに落ちてくるのは涙であるよ…
ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば ただ有明の 月ぞ残れる (ほととぎす なきつるかたを ながむれば ただありあけの つきぞのこれる) 後徳大寺左大臣 「ほととぎすが鳴く方を見ると、その姿はもうなく、ただ有明の月がひっそりと残っていた。 明け方に鳴…
長からむ 心も知らず 黒髪の 乱れて今朝は 物をこそ思へ (ながからむ こころもしらず くろかみの みだれてけさは ものをこそおもへ) 待賢門院掘河 「あなたの心が末永く変わらないかどうかもわかりません。お会いして別れた今朝は、寝乱れ髪のように心も乱…
秋風に たなびく雲の 絶え間より もれ出づる月の 影のさやけさ (あきかぜに たなびくくもの たえまより もれいづるつきの かげのささやき) 左京大夫顕輔 「秋風に吹かれてたなびいている雲の切れ間から、もれ出てくる月の光の、なんとすみきった明るさであ…
淡路島 かよふ千鳥の 鳴く声に 幾夜寝覚めぬ 須磨の関守 (あはぢしま かよふちどりの なくこえに いくよねざめぬ すまのせきもり) 源兼昌 「淡路島から飛んでくる千鳥の物悲しい鳴き声で、いく夜目をさましてしまったことであろう。須磨の関守は。 神戸市…
背を早み 岩にせかるる 滝川の われても末に 逢はむとぞ思う (せをはやみ いはにせかるる たきがはの われてもすえに あはむとぞおもふ) 崇徳院 「川瀬の流れが岩にせき止められ、その急流が二つに分かれてもまた一つになるように、今はあなたと別れても将…
わたの原 漕ぎ出でて見れば ひさかたの 雲居にまがふ 沖つ白波 (わたのはら こぎいでてみれば ひさかたの くもいにまがふ おきつしらなみ) 法性寺入道前関白太政大臣 「広々とした海に船を漕ぎ出すと、はるかかなたの沖に雲と見間違えるばかりの白波が立っ…
契りおきし させもが露を 命にて あはれ今年の 秋もいぬめり (ちぎりおきし させもがつゆを いのちにて あはれことしの あきもいぬめり) 藤原基俊 「あなたがお約束して下さった「ただわたしを頼みにせよ、させも草だ」という言葉を命にしてきましたが、こ…
憂かりける 人を初瀬の 山おろしよ はげしかれとは 祈らぬものを (うかりける ひとをはつせの やまおろしよ はげしかれとは いのらぬものを) 源俊頼朝臣 「わたしに冷たかった人が、わたしに心を向けてくれますように。初瀬の観音様にそうお願いしましたが…
高砂の 尾上の桜 咲きにけり 外山の霞 立たずもあらなむ (たかさごの をのへのさくら さきにけり とやまのかすみ たたずもあらなむ) 権中納言匡房 「遥か遠く高い山の峰の桜が咲いたな。人里近い山の霞よ。花が見えなくなるから、立ちこめないでおくれ。 …
音に聞く 高師の浜の あだ波は かけじゃ袖の ぬれもこそすれ (おとにきく たかしのはまの あだなみは かけじゃそでの ぬれもこそすれ) 祐子内親王家紀伊 「うわさに高い高師の浜のあだ波のように、浮気で有名なあなたの言葉は心にかけますまい。あとで袖が…